Column Vol.23
Yasuhisa Shimono |
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●下農 裕久
筑波大学大学院 体育研究科
体育心理学研究室 |
昨夏のアテネオリンピックでの日本選手の活躍はまだ記憶に新しいと思います。アテネオリンピックに関してはあまり聞かれませんでしたが、少し前の日本選手は予選等では強いのに、オリンピックや本番の試合で実力通りの力が出せず、「メンタル面に問題がある」「気持ちが弱い」などという言葉をよく耳にしました。もちろんアテネオリンピックでも十分な実力が発揮できず、悔しい思いをした選手や逆に実力以上の力を発揮した選手もいたことでしょう。それは生身の人間が行う「スポーツ」の本当に面白い側面であり、そのような現象は私たちの身近にも起こっているし、多くの人が同じような経験をしています。また、選手からは「気持ちが大事」や「精神力で乗り切る」などの言葉をよく耳にします。普段、見過ごされがちなスポーツでの「こころ」や「心理」が意識されるのは、上記のような場合が多いのではないでしょうか?
スポーツ心理学(日本では言葉の定義は明確でない)の教科書を紐解いてみると、非常に多岐な内容に渡っていることが理解できます(図)。また、これらの内容は、スポーツの現場で「何となく、うやむや」にされている部分であることが多いといえると思います。それは、指導者も選手も、アスレティックトレーナーにとっても同様です。「良いスポーツ心理学の実践者は、良い指導者である」という言葉はよく言われます。それでは、その「良い指導」や「良い指導スタイル」とはどのようなものなのでしょうか?トレーニング科学やスポーツ医学、バイオメカにクスなどの知識が十分に反映されている指導でしょうか?スポーツ心理学の分野には運動学習なども入ります。メンタルトレーニングなども重要かもしれません。もちろん、それらも重要ですがそれだけでは不十分だといえるでしょう。そして、それを最も感じているのは現場の指導者であり、アスレティックトレーナーやストレングスコーチだと言えると思います。
「一生懸命指導しているのに選手がそれに応えてくれない」「怪我をした選手がリハビリテーションに専心しない」などの問題を抱えている指導者やトレーナーは多いと思います。もちろん、その悩みはそれぞれであり、一様に解決できる訳ではありません。しかし、選手は「こころ」(「こころ」とは何か?という議論はとりあえず置いておきます)を持っている人間です。「からだ」を使ってスポーツをしても、きっと「こころ」が大きく影響していることは間違いないでしょう。ところが、現場ではその部分が「何となく、うやむや」にされているのが実情です。もちろん人の「こころ」を完全に理解しようとしても無理でしょう。矛盾しますが「うやむや」なのはいた仕方ないのも現状です。
「良いスポーツ心理学の実践者は良い指導者」であるとするならば、スポーツ心理学を学んでいくことは、現場の指導者やトレーナーにとって避けては通れないことのように思います、少なくとも、スポーツが人によって行われる限りは。
また、最近よく取り上げられていますが、摂食障害やバーンアウトなどスポーツ選手に発生しやすい心理的諸問題(一概にはそうも言えませんが)もあります。指導者やアスレティックトレーナーがそのような心理的諸問題に関しての知識を持っておかないと、それらに関しての対応や予防措置を講じていくのが遅れてしまいます。それは取り返しのつかない事態につながる恐れのあることを忘れないでください。そして、何か問題があると感じた時には速やかに専門家の指示を仰ぐことも必要です。
選手が安全にスポーツを行うためにも、指導者やアスレティックトレーナー、もちろん選手も心理に関する知識に興味をもつことは重要かと思われます。

図.Robert N.singer,Heather A.Hausenblas,Christopher M.Janelle edited:Handbook
of Sport psychology 2th edition.より抜粋。
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