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Column Vol.7
Masatoshi Murakami

ラクロスだけでなく様々なスポーツにおいて「あの選手はバランスが悪い」とか「身体の使い方が下手だ」などという解説をよく耳にします。しかし、何が原因でそうなっているかというところにはあまり触れられていません。コーチングの現場では、何が問題でどのようにすればそれを解決できるのかをわかりやすくより具体的にしていくことが重要です。バイオメカニクスはそれらの問題を解決する為に重要な役割を担います。
 今回はバイオメカニクスを陸上競技のコーチングに活かし、成果を挙げている村上雅俊さんにバイオメカニクスの重要性について紹介していただきました。

 
 バイオメカニクス その一
 ●村上 雅俊
  大阪体育大学陸上競技部コーチ
  龍谷大学非常勤講師
  日本陸上競技連盟医科学委員会研究協力員

 ここ数年,日本のスポーツ競技力の進歩は目覚しいものがあります.先に行われたバルセロナでの世界水泳平泳ぎで金メダルを獲得した北島康介選手などはとても良い例だと思います.なぜならば,日本の水泳界では,スポーツ科学の重要性を認識し,あらゆる分野のスペシャリスト達で作った「チーム」で,選手が最高のパフォーマンスを発揮できるように最大限にバックアップしているからです.このように,選手をサポートするためのスポーツ科学が急速に発展していることが日本の競技レベルを高めている大きな要因の一つであると考えられます.そこで,スポーツ科学の中の「バイオメカニクス」という分野についてご紹介したいと思います. 
 バイオメカニクスとは,語源どおり(バイオ:生体,メカニクス:力学),スポーツにおける身体の運動や,道具の振る舞いを力学的に研究し,身体運動のメカニズムの究明,スポーツ技術の究明・開発,トレーニングや障害の予防,さらに用具の開発への示唆を引き出すこと(阿江 2002)をねらいとしています.つまり,良い動きとは何かをデータや理論で客観的に証明し,それらの科学的根拠をもとにトレーニング方法や指導論を確立していくことです.速く走ったり,物を遠くに投げたりすることができる身体の仕組み(バイオメカニクス)を知っていることがより効果的なトレーニングを行える一つの道しるべとなるのです.一昔前までは,バイオメカニクスは,“机上の空論”的な扱いを受けていましたが,最近では,様々なスポーツ団体における医科学委員会での活動やスポーツ科学の急速な発展によって,バイオメカニクスの重要性が競技スポーツ指導の場などにおいて叫ばれるようになり,また,指導者の主観的な評価(経験)よりもデータなどの客観的な評価(事実)をもとに選手を育成・指導する傾向も生まれるようになってきました.しかし,バイオメカニクスを有効活用するためには課題が多いことも事実です.大きな課題として,(1)バイオメカニクス的データを得るためには,ある程度の時間とエネルギーを必要とし,スポーツ活動現場への即時フィードバックが容易でないということ,(2)得られたデータをもとに選手,指導者などを交えたディスカッションの場が著しく乏しいこと,などが挙げられます.つまり,バイオメカニクス(学問)とコーチング(スポーツ現場)を結ぶ橋渡しがスムーズにできていないということです.
 スポーツ科学の発展・普及とともに研究者の手元には,膨大な科学的根拠を示すデータが蓄積されています.また,日頃からパフォーマンス向上のために,より良いトレーニング方法などの確立を目指し,選手とともに切磋琢磨している指導者には,より実践的な指導プログラムが備えられています.これらをうまく融合することができれば競技スポーツのレベルはさらに向上すると思います.陸上競技100m走の元世界記録保持者カール・ルイスを育てたトム・テレツ氏は「科学を理解できない指導者は良い指導者にはなれない」と言っています.現実的には難しいことですが,今後,そういった資質(科学的根拠を理解できる能力)をもった指導者を育成する動きが活性化されることは間違いないと思います.